第54回日本伝統鍼灸学会学術大会
第54回日本伝統鍼灸学会学術大会 大阪大会
日本鍼灸と儒・仏・道
-臨床に活きる東洋アジア思想-
期間 2026(令和8)年9月5日(土)~9月6日(日)
会場 立命館いばらき フューチャープラザ
伝統鍼灸 第53巻 第2号 pp.214
一般口演1 10:30 pp.122
妊娠継続を目的とした鍼灸治療の一症例
蛍東洋医学研究所
大塚 信之、瀨尾 寿々
【目的】
出産を目標とした鍼灸治療では、妊娠率の向上だけでなく流産率の低下も重要となる。妊娠継続を目的に鍼灸治療を実施した症例を報告する。
【症例】
(患者)20代後半の女性。(初診)X日。(主訴)過去に2回流産したので、再度流産したくない。卵子の質の向上も希望。(現病歴)X-6か月に妊娠6週で流産。X-3か月に妊娠7週で流産。(問診)食欲は旺盛、便は正常、尿は昼間に5回。目の疲れとストレスを感じる、考え事が多い、恐がりやすく驚きやすい、暑がりだが冷えもある。服用薬は葉酸やビタミン剤等。鍼灸歴無。(望診)身長165cm、体重55kg。(舌診)淡紅舌、薄白苔、怒張無。(切診)腹診は肝と腎の虚。脈診は浮遅虚、腎と肝の虚。(証決定)肝虚証。(治療)本治法は、右曲泉と右復溜に直径0.16mm長さ40mm銀鍼で接触鍼による補法。標治法は、八脈交会穴の左照海と右列欠、百会、肝兪、腎兪に直径0.16mm長さ30mmステンレス鍼を置鍼。中注、四満、中極、大腸兪、次髎、三陰交に温筒灸(山正製長安)を1壮施灸。腹部と下肢への自宅灸を指導。治療8回目(X+51日、妊娠3週)着床が想定されたため八脈交会穴への置鍼を終了。9回目(X+58日、4週)妊娠反応を確認。腹部の温筒灸を中封の温筒灸に変更。自宅灸を中止。安産に関する資料を提供。11回目(X+75日、6週)心拍を確認したため、下肢の温筒灸は温感が得られた時点で取除く知熱灸とした。驚かないように指導。17回目(X+156日、18週)側臥位となったため背部の温筒灸を終了。18回目(X+177日、21週)中封の温筒灸を終了。三陰交の自宅灸を指導。35週に治療を予定していたが切迫早産気味となったため、23回目(X+256日、32週)をもって治療を終了。
【結果】
X+310日(40週)に出産した。治療は9週までは毎週、10週以降はほぼ2週間ごとに実施した。心拍確認までは、肝虚証7回、腎虚証2回、肺虚証1回。心拍確認後は、肺虚証7回、脾虚証3回、肝虚証2回、腎虚証1回であった。明治国際医療大学弁証スコアを元に作成した体質評価では、気滞70%、陰虚42%、血虚36%となり、実証である気滞が既病域に該当した。
【考察】
早期流産は約8割が染色体異常とされるが、治療開始後2回目の排卵で妊娠したことから、卵巣機能や着床環境を含む生殖機能の改善に寄与した可能性が考えられる。また、着床以降は刺激量を調整するとともに、患者への資料提供や診察結果の説明を通じて継続して生活指導を行ったことが奏功したと考えられる。本治法では、脈が最も良くなる経穴を選穴したが、多くが熱証の配穴となった。20歳代と年齢が若く、熱証や実証傾向の体質であったため、妊娠および妊娠継続に有利に働いた可能性がある。照海は陰蹻脈、列欠は任脈に対応しており、いずれも主治に生殖関連の病症がある。中注と四満は腎経と衝脈の賦活、中極は任脈の賦活、腰臀部の経穴は骨盤内血流改善を考慮した。
【結語】
不妊症や妊娠中の不快症状の治療だけでなく、妊娠継続に対する鍼灸治療への期待は高いと考えられる。伝統鍼灸の領域においても、妊娠率の向上だけでなく、妊娠継続に関する症例の集積が重要となる。
キーワード 妊娠継続、流産、八脈交会穴、温筒灸
住所
〒560-0033 大阪府豊中市螢池中町3丁目8-14
E-mail: hari.otsuka.holding@gmail.com


