蛍東洋医学論文誌 JHTOM 010101
Vol. 1, No. 1, 2014
0.3M
西洋医学に基づいた女性の痛みと治療方針
Pain of the Woman and Medical Treatment based on Western Medicine
大塚 信之 所属 住所
Nobuyuki Otsuka Affiliation Address
あらまし
女性はホルモン性の痛みが発生する.ライフスタイルの変化に伴い、痛みを生ずる機会の増加が原因として考えられる. 月経痛などによる経済効果を考えると、月経痛のコントロールが必要となる. 西洋医学の進歩によりホルモン剤が進化しており、症状緩和には、ホルモン剤の投与が効果的となる. 一方、閉経後および機能性月経困難症の精神的な側面については、東洋医学が効果を発揮する領域であり、東洋医学に基づいたアプローチが重要となる.
キーワード 月経痛,月経困難症,月経前症候群,機能性月経困難症,東洋医学
1.はじめに
女性の腹痛には、子宮、卵管、卵巣などに由来する腹痛で、月経関連(月経痛など)、妊娠関連(子宮外妊娠など)、感染症関連(骨盤感染症など)、腫瘍関連(卵巣腫瘍破裂など)などがあり、月経痛は多くの女性で認められている.
月経痛は、月経開始後から閉経(51歳) まで続き、その間、月経は卵胞ホルモン(エストロゲン)に左右される.
昔の女性は多産であったために、一生の月経回数は50回程度であったが、現在は妊娠の回数が減っために、月経の回数が450回に増えている.
その結果、月経に関する問題が顕在化してきた.
卵巣内では、卵胞ホルモン(エストロゲン)が働き、排卵を促す.
排卵後は、卵子が卵管を通り子宮に運ばれると、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、子宮内膜全体を厚くして妊娠の準備を整える.
受精卵が着床するとそのまま妊娠するが、着床しない場合には子宮内膜が役目を終えて剥がれ落ち、血液とともに体外に排出される.このとき、プロスタグランジンが分泌され、子宮の収縮を促す.
このプロスタグランジンが痛みのもととなっており、分泌が増えすぎると、子宮の収縮が強くなり、子宮の周辺の充血やうっ血に伴って痛みを感じる.
月経痛の症状は、月経の1日前が最も大きく、2~3日前から前兆がある.
2.閉経前の場合
2.1 月経困難症
月経痛を感じる女性の比率は67%程度であるが、鎮痛剤で効果がある場合が26%あり、薬による治療が一定の効果を上げている.一方で生活に支障のある痛みがある場合が6%ある.この、日常生活に支障をきたすほどの月経痛を月経困難症と呼び、一般的な生理痛と区別している.
月経困難症での痛みの発生原因は、プロスタグランジンやヒスタミンの生成による.治療薬は、非ステロイド消炎鎮痛剤(NSAIDs)などがあり、効果的に鎮痛効果を得るには、痛み出す前にこれらの治療薬を服用することが重要となる.副作用には、子宮・腸管・血管の収縮がある.副作用として、血圧低下や眠くなる事も考慮する必要がある.
2.2 治療方法
月経困難症は、器質性月経困難症と機能性月経困難症に分類される.器質性月経困難症の場合では、原因疾患があることが多く、子宮内膜症、子宮線筋症、子宮筋腫などがある.
一方、機能性月経困難症の場合は、原因疾患がなく、原因としてプロスタグランジン量の減少、子宮卵巣の未熟、冷え・ストレスなどがある.
西洋医学の治療方法には、鎮痛剤やホルモン剤(エストロゲンとプロスタグランジン)を投与する場合と、マイクロ波子宮内膜アブレーションや子宮内避妊装置(IUS: Intrauterine Contraceptive System)を挿入する場合がある.
2.3 月経前症候群
(PMS:Premenstrual Syndrome)は、生理が始まる約2週間前に生じる心と体の様々な不調のことで、生理が始まると自然に消えたり、軽くなるという特徴を有する.
月経前症候群は、体の不調、精神的トラブル、仕事上の障害などが原因となって発症する.症状は、体温が上がったり、むくみなどがある.治療は、塩分摂取量の削減、ビタミンB6投与、カフェイン摂取抑制などがある.セルフケアも必要となる.
2.4 子宮内膜症
子宮内膜症は、本来は子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜が、子宮以外の場所(卵巣、腹膜など)で増殖、剥離を繰り返すことにより発症する.子宮内膜症による痛みの原因は、組織の癒着が起こるためであり、子宮と直腸の間や卵巣に子宮内膜の組織ができ、月経時に剥がれ落ちて癒着を生ずる.治療法は、ホルモン療法や手術療法がある.注射の場合は、骨が脆弱化するので6ヶ月間のみとなる.
子宮内膜が残っていると発癌するので、投与を中断して生理を起こす必要がある.
3. 閉経後
3.1 中高齢者の状況
中高齢者の症状として、一般的には、エストロゲン欠乏症の出現や、頭痛・肩こり・骨粗鬆症などがある.精神症状として、イライラなどもある.
3.2 閉経後の症状
中高齢者のなかでも、閉経後の症状は、膣内の自浄作用の低下による萎縮性膣炎や、ホルモン療法の副作用として出血や乳癌の進行などに注意する必要がある.
閉経後の痛みについては、ホルモンの効果が閉経前ほど顕著では無いにも関わらず、依然として存在している.
4.考察
ホルモンの影響が良く解ってきたことにより、女性の痛みについての西洋医学に基づく治療が進歩した.
しかしながら、閉経後の痛みについては、ホルモンの効果が閉経前ほど顕著では無いにも関わらず、依然として存在している.閉経後はプラセボ効果があるなど、精神的な側面が非常に大きいことが示唆される.そこで、精神的な側面については、西洋医学では心療内科的観点からのケアが重要となる.また、精神的な面の治療を東洋医学に基づき実施することは意味があると考えらえる.
一方で、疾患がない機能性月経困難症の精神的な側面については、東洋医学が効果を発揮する領域であり、科学的分析に基づいて効果があることも示されている.特に、機能性月経困難症への東洋医学的アプローチが重要になる.
閉経後に関しては、西洋医学的アプローチには限界があるため、鍼灸師と西洋医との連携により症例を増やしていく必要がある.
5.むすび
女性はホルモン性の痛みが発生する.最近は、ライフスタイルの変化に伴い、痛みを生ずる機会が増加したことも原因として考えられる.月経痛などによる経済効果を考えると、月経痛のコントロールが必要となる.医学の進歩によりホルモン剤が進化しており、症状緩和には、ホルモン剤の投与についてより積極的に考えていく必要がある.
一方、閉経後および機能性月経困難症の精神的な側面については、東洋医学が効果を発揮する領域であり、ホルモン剤だけでなく東洋医学的アプローチが重要になる.
文献
[1] 内田さえ他,東洋療法学校協会編教科書 生理学第3版.
[2] 田所千加枝,”女性の痛みについての総論”,近畿支部研修A講座,2014年9月14日,大阪市.
(平成26年9月17日受付)
大塚 信之
1985年 東北大学卒業
1987年 東北大学院博士前期課程終了
1997年 博士(東北大学)
1999年 蛍東洋医学研究所設立
2014年 明治東洋医学院専門学校在籍
漢方、鍼灸、気功など、東洋医学に関する研究に従事
所属 Affiliation
蛍東洋医学研究所, 大塚鍼灸院
Hotal Ancient Medicine Research Institute (HARI), Otsuka Clinic
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