蛍東洋医学論文誌 JHTOM

Vol. 1, No. 1, 2014PDF  0.3M
鍼灸による月経痛の緩和効果
Acupuncture Relieves Menstrual Pain

大塚 信之 所属住所
Nobuyuki Otsuka AffiliationAddress

あらまし

月経困難症は、月経に伴う骨盤痛で、下腹部痛や腰痛を伴う.月経困難症に鍼灸治療を適用できることは、最近の研究で明らかになりつつある. 機能性月経困難症の直接(即効性)効果では、月経時に鍼電気刺激(EA)や経皮的神経刺激法(TENS)を用いて、得気を得るなどの強めの刺激が有効となる.特に、三陰交・腹部・腰部・仙骨部が効果がある. 機能性月経困難症の予防効果では、月経の数日前から月経開始数日までが効果的で、3月経周期継続する必要がある. 鍼や円皮鍼を用いて、三陰交・地機・次髎・太衝に効果がある.

キーワード 月経痛,月経困難症,機能性月経困難症,東洋医学,鍼灸治療

1.はじめに

月経異常には、初経や閉経の時期が異常である思春期早発症、早発閉経があり、月経周期の異常として、頻発月経、稀初月経、無月経があり、月経量の異常として過多月経、過小月経、さらに月経に随伴する症状の強い月経困難症などがある.
月経困難症とは、月経に伴う骨盤痛で、下腹部痛や腰痛を伴うことがある.月経困難症は、原発性月経困難症と、続発性月経困難症に分けられる.原発性月経困難症は、思春期に始まり、加齢とともに、あるいは妊娠後に軽減する傾向がある.疼痛は、分子性子宮内膜で産出されるプロスタグランジンが介在する.
続発性月経困難症は、成人期に始まり、潜在的骨盤内異常により生ずる.器質性月経困難症としての子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、および機能性月経困難症などが原因となる.
月経困難症では、月経直前または月経開始とともに下腹部痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛などが強く出現する.
月経困難症における原因疾患の比率は、機能性が47%、器質性としては、子宮内膜症29%、子宮筋腫17%、子宮線筋症4%となる.器質性の場合は、30歳以上で、加齢に伴い悪化し、妊娠しても不変、悪化すると月経時以外にも起こることを特徴とするため、問診を十分に行うことで正確な治療方針を立てる必要がある.治療としては、ホルモン療法がおこなわれるが、子宮筋腫で自覚症状や貧血が強い場合には手術の適応となる.

2.女性の生理と病理

東洋医学においては月経に関して、次のような記載がある.女性は、14歳で天葵至り月経が始まり、49歳で任脈空虚になり月経が停止する.これは、腎気の盛衰の過程として現在にも通用する.
子宮を意味する女子胞は、月経や妊娠の物質的基盤としての腎、血の貯蔵および血量の調整機能としての肝、月経や妊娠の物質的基盤としての脾と関係する.
女子胞は四脈の支配を受けており、衛脈は十二経の海として月経をめぐらし、任脈は陰経の海として月経を主り、督脈は陽経の海として月経の周期性を主り、帯脈は間接的に女子胞と繋がる.
病理学からは、病因として内因(七情:怒、思、恐)、外因(六淫:寒邪、熱邪、湿邪)、不内外因(先天不足、早婚多産、房事過多、飲食の不摂生、過重労働)などがある.

3. 月経困難症の鍼灸治療

3.1 東洋医学における月経困難症診断
東洋医学では、一般的な四診(望診、聞診、問診、切診)に加え、産婦人科疾患に対しては月経、帯下、妊娠、産後の状態に関する所見を得る.望診では、舌診だけでなく、月経血の色も重要となる.切診では、必ず腹部を触診する.四診の結果、不通則痛の実証か、不栄則痛の虚証であるのかを弁証する.
実証の場合、気滞血瘀証、寒湿凝滞証、湿熱下注証の3証が見られる.ともに経期前および経期中に下腹部の疼痛が現れ、拒按であり、経期が終われば痛みが緩和される.気滞血瘀証の疼痛は、脹痛や刺痛であり、胸脇や乳房が張ることがある.寒湿凝滞証の疼痛は、冷痛であり温めると痛みが軽減し、経血量は少なく、色は黒く血塊がみられる.湿熱下注証の疼痛は、灼熱痛であり、腰部に脹痛が現れる.
虚証の場合、陽虚内寒証、気血不足証、肝心虚損証の3証が見られる.ともに月経期または経期後に疼痛が現れ、疼痛はそれほど激しくなく、手で押さえると痛みが軽減する.陽虚内寒証の疼痛は、下腹部に冷痛が現れ、温めると痛みが軽減する.気血不足証の疼痛は、下腹部に隠痛が現れ、手で押さえると痛みが軽減する.肝心虚損証の疼痛は、下腹部に空墜感があり、シクシクと痛み、腰にはけだるく張ったような感覚がある.
月経以外の原因から起きている腹痛は、経期中に発生したり悪化することがあるため、月経痛とは異なるものとして扱う必要がある.また、月経痛は腹痛とともに乳房の脹痛、発熱、頭痛、全身の疼痛などが現れる場合が多い.この場合は、主次を明確に判断して、疾患の内在的な本質を把握する必要がある.

3.2 機能性月経困難症の直接効果
鍼電気刺激(EA:Electrical Acpuncture)は、機能性月経困難症に伴う月経痛を軽減する.特に、痛みの評価指標であるバーチャルアナログスケール(VAS:Visual Analogue Scale)において三陰交への刺鍼が痛みの軽減効果が大きいことが明らかとなっている.
月経困難症の原因としては、痛み物質であるプロスタグランジンの増加と血流の減少が考えられるため、それぞれに対して三陰交への刺鍼の効果を評価した結果が報告されている.
三陰交への鍼電気刺激(EA)の効果は、血中プロスタグランジン濃度に影響を与えないことと、子宮動脈血流に影響を与えないことがわかっている.また、痛みの緩和が確認されている三陰交への置鍼の場合では、子宮動脈の血流増加が確認されている.
経皮的神経刺激法(TENS:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)の場合は、プロスタグランジン合成抑制剤に比べて早い段階から痛みの緩和が確認されている.月経時に鍼電気刺激(EA)や経皮的神経刺激法(TENS)を用いて、得気を得るなどの強めの刺激が有効となる.特に、三陰交・腹部・腰部・仙骨部が効果がある.
一方で、経皮的神経刺激法が子宮収縮に影響しないことが確認されており、鍼や経皮的神経刺激法による月経困難症緩和のメカニズム解明は十分ではない.

3.3 機能性月経困難症の予防効果
機能性月経困難症の予防効果については、海外から27論文が報告されている(内中国23論文).使用される経穴は、三陰交が最も多い.多くのランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)において、85~100%の有効性が報告されている.
田口らによる報告では、三陰交への円皮鍼は実施3ヵ月後に効果が現れることが示されている.月経痛に関する円皮鍼の効果は、48%が軽減したが、37%は不変、増悪は15%であった.月経痛が軽減したグループは神経症の傾向が弱く、不変や増悪したグループは神経症傾向が強い特徴があった.治療前に神経症傾向を把握することで、円皮鍼の治療適否をあらかじめ推定できると考えられる.
以上のことから、機能性月経困難症の予防効果としては、月経の数日前から月経開始数日までが効果的で、鍼灸治療を3月経周期継続する必要がある.鍼や円皮鍼を用いて、三陰交・地機・次髎・太衝が効果がある.

3.4 器質性月経困難症の予防効果
器質性(続発性)月経困難症では、3月経周期から6月経周期での気海・関元・中極・三陰交が有効という報告がある.

4.考察

機能性月経困難症の予防効果については、三陰交において多くのランダム化比較試験(RCT)が行われている.ここでは、東洋医学的な分析だけでなく、八綱弁証による分析が重要となる.海外に比較して日本からの報告が少なく、今後は、特に日本人の症例を増やすことが強く望まれる.
西洋医学において、月経困難症やそれに伴う月経痛のメカニズムが明らかになり、ホルモン量、血液量、筋収縮量などの特徴量が明らかになった.今後は、それぞれの特徴量に対して、鍼灸がどのようなメカニズムで効果があるかといった検証が待たれる.
一方で、東洋医学的アプローチという観点からは、個別の特徴量に対する分析的アプローチではなく、全体からみたホリスティックなアプローチも特徴である.分析的手法の活用にとどまらずホリスティックな全体論的分析を科学的にどのように進めていくかといった、東洋医学的な新しい方法論の確立が求められている.

5.むすび

月経困難症に鍼灸治療を適用できることは、最近の研究で明らかになりつつある.機能性月経困難症の直接(即効性)効果では、月経時に鍼電気刺激(EA)や経皮的神経刺激法(TENS)を用いて、得気を得るなどの強めの刺激が有効となる.特に、三陰交・腹部・腰部・仙骨部が効果があることが明らかとなった.
機能性月経困難症の予防効果では、月経の数日前から月経開始数日までが効果的で、3月経周期継続する必要がある.鍼や円皮鍼を用いて、三陰交・地機・次髎・太衝が効果があることが明らかとなっている.

文献

[1] 奈良信雄,東洋療法学校協会編教科書 臨床医学総論第2版
[2] 奈良信雄,東洋療法学校協会編教科書 臨床医学各論第2版
[3] 楊亜平,中医弁証,東洋学術出版会
[4] 吉元授 他,”月経痛に対する鍼治療の効果: 円皮鍼を用いた検討”, 全日本鍼灸学会雑誌 vol. 59 , no. 4, pp. 406-415, 2009.
[5] 田口玲奈,”月経痛に関する鍼灸の効果を中心に”,近畿支部研修A講座,2014年9月14日,大阪市

(平成26年9月17日受付)


photo 大塚 信之
1985年 東北大学卒業
1987年 東北大学院博士前期課程終了
1997年 博士(東北大学)
1999年 蛍東洋医学研究所設立
2014年 明治東洋医学院専門学校在籍
漢方、鍼灸、気功など、東洋医学に関する研究に従事


所属 Affiliation
, 大塚鍼灸院  Hotal Ancient Medicine Research Institute (HARI), Otsuka Clinic

住所 Address
 〒560-0033 大阪府豊中市螢池中町3丁目8-14
 3-8-14 Hotarugaike-nakamachi, Toyonaka, Osaka, 560-0033 Japan

E-mail
 hari@otsuka.holding.jp


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