鍼道秘訣集

脉は、昔から七表八裏九道に分けると言いますが、実際はこのように細かく分ける人はいません。 浮、沈、遅、数の四つに分類している人も稀です。
夢分流の四種類の脉は、非常に大きな利点があります。 動気、動気の乱る、相火、相火の乱るの四種類です。

動気の脉は、遅くなく、トントントンと打つ脉です。 一般的で、平脉になります。

動気の乱るの脉は、平脉の中に打切れがあります。 例えば、トントントンと来たあとに、トントントトントントントトンと打切りになります。 病気ではない人がこの脉になると、必ず災難に遭うか大病を患います。
昔、意斎と道三が友達だった頃に、夢分より伝授したこの四つの脉を意斎が道三に伝えました。 その後、道三は関東に向かう用事があって、道中で新井の宿に泊ろうとしました。 日が暮れて、宿屋の主人の脉を診ると、動気の乱るを打っていました。 道三は、その宿の下人達を呼び寄せて、一人ずつ脉を診たところ、みな同じように災難に逢う動気の乱るの脉でした。
道三は不思儀に思い、そのまま宿を立って、夜中に五六里ほど関東の方に移動した所にある宿に泊まることにしました。 心を静めて、宿屋の全員の脉を診たところ平脉でしたので不思議に思いました。 その夜、新井の山が崩れ、新井の人々はその災害にあって沢山の人が死にました。 道三が死を逃れたのは、伝えられた脉のお陰です。
道三は、この四種類の脉を秘密にして弟子に伝えなかったので、秘伝が失われてしまいましたが、意伯家には伝わっています。 これ以外にも、同様の奇特なことが沢山ありますが、筆舌に尽くしがたく、省略します。

相火の脉は、トントントンと早く打つ脉です。これを病人の脉といいます。

相火の乱るの脉は、早く打つ脉の内に、トントントトントントントトンと打切りがあります。 これは死脉です。このような脉は全員が死ぬと思ってよいです。

これは夢分流の大切な教えですが、この四種類の脉を知っていて治療をすると、夢分流の針医は間違いを起こさず、患者が非業の死を遂げることもなく、大変善いことと思って書き記します。
脉をみる場所は手首ではありません。 臍の中央の神闕に指の腹を当てて打っている脉を診ます。 夢分流では、この神闕を三焦の腑といいます。 これも弟子のみに相伝することであり、詳しくは秘密なので略します。