鍼道秘訣集

御薗夢分翁が、打針法を始めました。
夢分翁は、元々は禅僧でしたが、母親が重い病人であることを嘆いて、母親の孝行のために当時の名人といわれた針医から撚針術を習いました。 朝夕、母を治療して病を癒やそうとしましたが、重病なので良くなる兆しがありませんでした。 そこで、夢分翁は工夫を凝らし案を廻らして、自身の打針法で身を立てるには、自らの手に応じた方法で治療するしかないと思いました。 そうして、様々な人の病を九割がた治せるようになりました。
人々の病や苦しみを救うために、薬師如来の考えに従おうと思い、遠くの人や近くの人、位が高い人や低い人、金持ちや貧乏人などにこだわらず、病から救うことに専念しました。 ほどなくして、夢分翁の名前は方々で有名になりました。
これを御薗意斎が伝え聞いて不思議に思い、はるばる夢分翁の家を尋ねて弟子になり、何年もかけて奥義を授かりました。意斎も、有名になりました。 その弟子は沢山いましたが、奥田意伯が伝授し、京都に住んでその名を方々に広めました。 その子供の尊直も、父親以上に針術が優れていました。 その長男の意伯も同様に伝授して、京都で何万人もの病人を治しました。 打針法は、このように、代々、夢分翁より伝わったものです。
夢分流は十二経脈、十五絡脈、任督両脈を考えて針をしていません。 根本の五臟六腑を目標にして、枝葉末節は気にしないで治療をします。
針は心であると考えて、心を以て心に伝えます。文字ではなく、体験をもって心から心に伝えるので、他の流派のような治療に関する遠回りな書籍はありません。 心の中に奥義を納めて、心の持ち様を大切にしています。
一言では言えないので管針法や指針法などに惑わされる人もいます。 打針法の書籍はありますが、文章にしにくいために途中で書き換えられて、正しく伝わっておりません。 そこで、たくさんの誤りがあって、九割ほどの患者が亡くなっております。 このことは、本当に悲しく、残念に思います。
多くの人を死から救うと共に、多くの針医が過ちを犯さず名人といわれるように、秘伝の中でも特に秘密にしていることを書き記して、宝物として伝えます。 従って、少しも疑いを持ってはなりません。